株式会社西日本科学技術研究所|ブログ

オフィシャルブログ

四万十川だより(2)-四万十川のテナガエビ漁-

土佐の地も梅雨の季節となりました。今回は、四万十川を代表する川の恵みの一つであるテナガエビについてご紹介します。
四万十川でのテナガエビ漁は4月頃から始まります。四万十川でもっともポピュラーな漁法は“エビ筒漁”とよばれるもので、塩化ビニール製のパイプをロープでつないで川岸に沈めます。漁師さんの中にはエビ筒を百個以上沈める方もいます。エビ筒漁に使うエサは、以前は米ぬかが主流でしたが、最近は「手が汚れない」ドッグフードを使う方も多いそうです。エビ筒には“カエシ”が付いているため、エサに誘われていったん筒に入ると出ることができません。漁獲されたテナガエビは市場に出荷され、時季にもよりますが1キロ当たり3~4千円の値がついているようです。
四万十川で主に漁獲されるテナガエビは、ヒラテテナガエビとミナミテナガエビの2種です。両種のオスはハサミの形で見分けることができます。ヒラテテナガエビは流れの速い瀬に、ミナミテナガエビは流れのほとんどない淵に棲んでおり、それぞれの形の違いも流れや河床に適応したものと思われます。四万十川におけるこれら2種の生態は平賀・山中(2005)に詳しく記されていますので、興味のある方はぜひご一読ください。

さて、肝心のテナガエビ料理法ですが、高知県の居酒屋では“唐揚げ”が定番メニューとなっています。これはビール党には絶品のツマミです。また、幡多地方(高知県西南部)の家庭では、キュウリと一緒に甘辛く煮付けて調理されるのが一般的です。こちらはやや甘目の味付けですがご飯がどんどん進みます。なお、煮付けの場合はキュウリを後で入れるようにしてください。キュウリを先に入れると煮崩れてしまうので要注意です。
テナガエビは夏の四万十に欠かせない味覚の一つです。四万十川を訪れた際には、ぜひテナガエビもご賞味頂ければと思います。

【引用文献】平賀洋之・山中弘雄.2005.四万十川中・下流域におけるミナミテナガエビおよびヒラテテナガエビの成長と繁殖.海洋と生物,27(1):3-9.

瀬に多いヒラテテナガエビ

幡多地方のテナガエビの煮付け。キュウリと煮付けるのが特徴です。

四万十川だより(1)-春を告げるゴリ上り落とし漁-

当社の四万十リサーチセンターは、「最後の清流」として知られる四万十川が流れる高知県四万十市にあり、四万十川やその近隣の河川を主なフィールドとして、アユをはじめとする魚介類等の生態調査・研究を行っています。
このほど、現地に駐在する東(あずま)研究員より四万十川の春の便りが届きましたので、皆さんにご紹介いたします。

四万十川下流域では、毎年3月になるとゴリの「上り落とし漁」が始まります。ゴリとはヌマチチブの稚魚のことで、漁獲されたゴリは塩をかけて水洗してぬめりを取ってから調理します。主に唐揚げや卵とじとして賞味され、四万十川にほど近い旧中村市一円の飲食店では定番メニューとなっています。とくに、卵とじにするとゴリ特有の香りと出汁が味わえます。また、保存の利く佃煮は四万十川の土産物としても有名です。
「上り落とし漁」は、河岸沿いを遡上するヌマチチブの稚魚の生態を利用した原始的な漁法です。まず、河原の砂利で土手を盛り上げて土手沿いに簀(す)の子を立てます。土手は上流に向かって斜め方向に積み上げられます。簀の子の末端にカゴを置いて、土手沿いを遡上した稚魚を末端のカゴに入網させます。良い時には数時間で10キロも獲れるといいます。ただ、良い場所、悪い場所があるので、年ごとに漁場を交代しなければならないそうです。初期は高値(7~8千円/kg)で取引きされますが、次第に値が下がります。ヌマチチブの遡上は8月頃まで続くのですが、水温が上昇すると他の魚が多く混じり始めるため、主な漁期は3月から4月の間です。
「上り落とし漁」にはヌマチチブ以外に様々な稚魚が混獲されます。例えば、ボラ、アユカケ、ウキゴリ属、ミミズハゼ属、数種のヨシノボリ属、ボウズハゼ等々です。魚類以外にモクズガニも入るそうです。土手を高くするとアユも混じります。魚種によって遡上時期やサイズ、遡上行動などが異なるため、魚類研究者としては、これら混獲物は四万十川に生息する通し回遊魚の遡上生態を知ることのできる“宝の山”に見えてきます。もし、四万十川に来られることがあれば、ぜひゴリの風味もご賞味頂ければと思います。

※画像はクリックすると拡大します。

ゴリの唐揚げ(左)と佃煮(右)。四万十川流域でよく親しまれているゴリ料理です。

ゴリの上り落とし漁のようす。土手に沿って簀の子が立てられています。遡上するゴリはこの簀の子に導かれて端に仕掛けたカゴに入ります。

 

獲れたばかりのゴリ。春の四万十川の風物詩です。